— 過労で立ち止まった元人事の私が学んだ「怒りと距離をとる練習」—
あなたの「当たり前」は誰かの「理不尽」。
そのズレに気づいたとき、怒りは現象に変わる。
はじめに
職場や取引先で、理不尽に怒られたり逆ギレされた経験はありませんか。
心臓がバクバクして、頭が真っ白になって、その夜まで引きずってしまう…。
私自身、過労で体調を崩した経験があります。だからこそ「怒りに飲まれたくない」「自分を守りたい」という気持ちはよくわかります。
この記事では、私が実際に体験したトラブルを通して、マインドフルネスで怒りと距離をとる方法をお伝えします。やり方だけではなく、「セオリー通りにいかないときにどうするか」も含めたリアルな記録です。
事件はいつも突然に:理不尽な状況に直面する
仕事で使っていたスタジオに到着したのに、鍵が開かない。
オーナーには電話もLINEもつながらず、カンカンの炎天下で待たされること20分。ようやく送られてきたのは「暗証番号」だけ。謝罪も説明もなし。
セッションを終えても、何もメッセージは来ていなかった。
当然あると思っていた「今日は本当に申し訳ありませんでした」の一言すらない。
その瞬間、腹の奥でマグマがぐつぐつと煮え立ち、胸の内側がカッと熱くなる。背中にじっとりと汗が広がり、足先だけは冷たい。
——怒りは、身体の温度をバラバラにしていく。
鼻が猫になる瞬間:呼吸で心をクールダウン
「とりあえず落ち着こう」
鼻から息を吸って、吐いて。お腹の上下に意識を向ける。
マインドフルネスの感情コントロール法を思い出して実践を試みた。
だが、呼吸はしていても頭の中は「なんで?」「謝罪なし?」「もう4回目なんだけど?」のループ再生。思考と感情が互いに煽り合って、心拍はさらに上がっていく。
その時だった。
「ぐるるるる…」という聞き慣れない音。
あたりを見回すけど猫はいない。手で鼻を押さえて気づいた。
——怒りすぎて、私の鼻が猫のいびきをかいていた。
思わず笑ってしまい、肩の力が少し抜ける。
怒りの真っ最中でも、ユーモアが差し込むと心に余白が生まれる。
理不尽な逆ギレ:怒りのラベリングを試みる
翌朝、オーナーからの返信が届いた。
前日に「セッションの遅延分を補償してほしい」と相談した際に、部屋が汚れていてすぐに使用できなかったことも伝えていた。
その返信がこちらだった。
「部屋の汚れ、どんな感じでしたか?」
……え? 昨日の遅延でも謝罪でもなく? そこ?
さらに追い打ちで「補償は範疇外です」。
その瞬間、全身に血が駆け巡り、胸はドクドクと脈打ち、こめかみまで熱がせり上がる。背後には漫画みたいに炎がメラメラ燃えている気がした。
「深呼吸、深呼吸…」
ふたたびマインドフルネスのアンガーマネジメントを試みる。
息を吸って吐くたびに、胸のざわつきにラベルを貼る。
「怒り」…弱い
「ムカつく」…まだ足りない
「クソ野郎」…少しスッとする
言葉を変えていくうちに、不思議と感情と自分の間に距離が生まれる。
キングコングと戦う:セオリー通りにいかない瞑想
それでも完全には収まらなかった。
その時、頭の中に黒くて大きな影が浮かんできた。
——キングコング。
大きな腕を振り回し、私の集中をかき乱す。
セオリー通りの瞑想なんて、怪獣の前では無力だ。
でもこう思った。
「あ、私は今“怪獣と戦っている最中”なんだ」
実況中継のように認識したとき、呼吸が少し深くなった。
怒りがゼロにはならなくても、観察することで「自分の位置」を取り戻せる。
「当たり前」は人によって違う
補償は最終的に振り込まれた。けれど締めはまさかの逆ギレ。
「更衣室を勝手に使っていたことをどう思っているんですか?」
……いや、あなたが「使っていい」と言ったからこそ使っていたのですが。
驚いたのは、その瞬間、私はもう怒らなかったこと。
「この人には、私の“当たり前”は通じない」
そう理解したからだ。
怒りの根っこには「なぜ」が潜んでいる。
「なぜ謝らないんだろう?」
「なぜ同じミスを繰り返すんだろう?」
私は「ミスを繰り返さない」「誠実に謝る」のが当たり前。
でも相手の当たり前は違う。
自分と相手の“当たり前”が違うと知ったとき、怒りは対象から現象へと変わった。
怒りを外に置く:マインドフルネス的な練習
マインドフルネスは、怒りをゼロにする魔法ではありません。
けれど、怒りと自分をべったり重ねるのではなく、少し距離をつくる練習になります。
今回の出来事から学んだ3つのこと:
- 呼吸で体を落ち着かせる(たとえ鼻が猫化してもOK)
- 感情にラベルを貼る(「怒り」でも「クソ野郎」でも、自分に効く言葉で)
- 当たり前は人によって違うと理解する(仕様が違う、と割り切る)
怒りを外に置けると、相手に引きずられず、自分の時間と心を守れる。
そして——怒りをネタにできるなら、それもまた財産になる。
まとめ:理不尽な怒りに流されないための感情コントロール
理不尽な怒りに直面したとき、私たちはつい「なぜ?」で頭をいっぱいにしてしまう。
でも、自分と相手の当たり前は違う。その理解が怒りを鎮める第一歩になる。
マインドフルネスは怒りを消すためではなく、「怒りを外に置く」ための練習。
呼吸とラベリングを繰り返すことで、感情に振り回されずにすむ。
怒りに流されない自分を少しずつ育てることが、未来を生きやすくしてくれる。
この経験が、私と、そしてこの記事を読んでくださったあなたの心を守る力になりますように。
——そして私は、キングコングと鼻いびきを引き連れてでも、自分の心を守っていきたい。
——浅見美菜子